転んだ先の神さま
高校生活もあっという間に過ぎて、
卒業後の進路を決める時期になりました。
ともみにとって高校の3年間は「親元を巣立つ前の準備期間」。
卒業後は製菓の専門学校へ進んで親から自立する。そう心に決めていました。
父の忠告をアドバイスに変換し、和菓子店を筆頭に
食に関連した店舗で毎日アルバイトを頑張り、
その甲斐あって、卒業を間近に控えた頃には
コツコツ貯めたお金は100万円に達するように。
(よし!卒業後の資金も貯まったし、
これで高校卒業後は夢へ向けてスタートだ!)
喜び勇んで憧れの製菓専門学校の説明会に参加したのですが、
ここで思ってもいない出来事にぶつかることに。
「た…足りない。」
3年間の学生生活のほぼ全てを
アルバイトにつぎ込んで貯めた大金は、
入学金にも満たなかったのです。
ショックでした・・・。
自分にとって100万円は大金。
これだけあれば専門学校に通い、親元を巣立っていくには充分な金額だと思っていたのです。
足りないとは疑いもしなかったので費用も調べはしませんでした。
高校進学の時も
持ち前の前向きな受け止め方が発揮されて、
ない、から「ある」ことに気付き、切り抜けてきたともみでしたが、
今回はさすがに落ち込みました。
夢へ向かって目の前の道を信じ、ただひたすらに突き進んでいたのに。
突然その道が崩落したのです。
ところがところが・・・
いつまでも落ち込んでばかりでないのが彼女のいいところ。
(専門学校に行ってお菓子作りの腕を磨くつもりだったけれど、
学校に通っている期間はお金は出ていくばかりになる。
それに高校卒業後は実家を出て一人で暮らしていかなきゃ。
うーん…どうしよう・・・。
父からは以前から18歳までは面倒をみる
と言われていたので 卒業と同時に家を出なければ、と思っていたのです。
・・・あれ?
家を出て自分のやりたいことで生活をしていくために、
製菓の専門学校で腕を磨こうと思っていたけれど
最初から見習いとして製菓店に弟子入りしてしまえばいいのでは?
そうすれば、学費もかからないし、お菓子作りの腕も更に上がるじゃない!
わぁ!我ながらナイスアイデア!
よし!弟子入りしよう!)
さすが!それでこそともみです。
次なる一歩は弟子入り先を見つけること。
一流の腕をつけるなら、と都内の有名菓子店も考えましたが、
交通費や家賃を考えると高校3年間で溜めたお金では資金が足りなくなる。
ならば土地勘のある地元から通える範囲が現実的、
と候補の店舗に絞り込みアタック。
熱意が伝わればきっと雇ってくれるはず!
希望に胸を膨らませて店に飛び込むと、
ほとんどの店舗では新規採用者が決まっていて、
大半が専門学校の卒業生で枠が埋まっている、との返事。
さらに「弟子入り」という方法は
製菓業界では珍しかったらしく、
「寿司店でも最近は聞かない・・・」とつれない返事ばかり。
ですが、進む道が決まればへこんでられないともみ。
こうなったら、と電話帳に載っている製菓店へ
ア行から順に電話をかけます。
ところが、この作戦も残念ながら全滅。
いよいよどうなる!?と思ったら、
(一番最初に電話を掛けたお店に
なんとなく『隙』がある感触があったわ・・・
もう一押ししたら行けるかも!)
さすが抜かりなし!あっぱれです(笑)
最初に電話を掛けたアから始まる製菓店に、
今度は履歴書を持って直談判に。
「もうここしかないんです!タダでもいいから雇ってください!」
「このご時世に『弟子入り』って・・・君、オモシロイね~。
でも悪いんだけど新規採用枠はもう決まっちゃってね・・・。」
「そこをなんとか!もうここしかないんです!
ホントにタダでいいんで勉強させてください!」
「タダって言われてもそういう訳には・・・」
「いえ、本当にいいんです!」
「・・・君の熱意には負けたよ。
そんなにお菓子が好きなんだね。
充分なお給料の用意は出来ないかもしれないけれど、それで良ければおいで」
「あ・・・ありがとうございます!」
やったー!!交渉成立です!
*********
(・・・サワサワ・・・ソヨソヨ・・・)
(・・・ガンバッタネ・・・オメデトウ!・・・)
(・・・モウコレデ、メデタシメデタシ、ナノ?・・・)
(・・・フフフ・・・ソレハドウカナ?・・・)
つづく
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